「パリの秘密」、「ファントマ」、メディアの移り変わり

4月28日(木)

朝のうちに短い原稿を2本作成して入稿。

月末なので集金と払い込みに歩き回る。

午後は少し資料をひっくり返し、目を通す。急ぎの原稿もあるのだが、幸い(?)ゴールデンウィークなので1、2日の遅れは誤摩化せる。ごめんなさいと心の中で手を合わせ(ウソ)、少し横道に逸れていたら、古本の『「パリの秘密」の社会史』が届いてしまった。ぱらぱら見るだけにしようと思ったのだが、読み始めたら止まらない。結局、一気に通読してしまった。ウージェニー・シューの『パリの秘密』を軸にして、19世紀当時(共和制→ナポレオン三世期)のパリ社会や政治情勢、メディア状況などを書いた良書。こういう本は絶版品切れにしないで欲しいものです。

ウージェニー・シューは『さまよえるユダヤ人』が昔角川文庫で復刊された時に読んだ。感想としては、まあメロドラマ&活劇で、だらだら続く作品だなというものだったが、それでも飽きずに上下読み終わらせることができたのだから、そんなにつまらなくはなかったのかも知れない。ただ、全訳だったかどうかは、分からない。

新聞小説(フイユトン)の時代は19世紀の終わり頃には下火になり、20世紀には雑誌形式に変わる。代表選手が『ファントマ』で、これは60年代に滑稽映画にされてしまったが、もともとはかなり残酷な犯罪小説だった。これも早川文庫で1冊だけ読んでいる。抄訳だったがおもしろかった。久生十蘭訳はまだ手を出していない。『ファントマ』は2人の作家の合作で、月刊体制で発行された。全部で32巻にもなるらしい。

ファントマ』と書いたが、その少し前にルブランが『ルパン』の第1作(「ルパンの逮捕」)を発表している。これがどこにどういう形で出たかは、多分松村達雄の『怪盗対名探偵』を繙けば分かるのだが、今手元にない(っちゅーか例によってどこかに埋もれている)ので調べられない。と思っていたら、赤塚敬子『ファントマ』(これも良書)にちゃんと雑誌連載と書いてあった。同書によれば松村本の記述には間違いがある由。難しい世界である。

赤塚『ファントマ』は、作品紹介や時代背景記述の他に、他メディアへの受容や、シュルレアリスト達への影響などまで広がる内容で、ファントマという作品が当時出たばかりの新メディアである映画へ受け継がれていったことにも触れている。そうすると、新聞小説→雑誌連載や月刊出版→連続活劇(映画)、という流れになるわけだ。

赤塚本はあくまで中心が「ファントマ」なので、やはり詳細に欠ける恨みが残る。誰か、全般的な研究をしてくれないかしらん。